新規事業の立ち上げや画期的な製品開発において、知的財産に関するリスクを無視することは致命的と言わざるを得ません。本記事では、ビジネスの現場に潜む主な知財リスクの種類を整理し、トラブルを未然に防ぐために講じるべき具体的な対策について詳しく解説します。
ビジネスを展開する上で最も警戒しなければならないのが、知らず知らずのうちに他社の特許権や商標権、意匠権などを踏んでしまう「侵害リスク」です。これは企業にとって、攻め込まれる側のリスクといえます。
もし自社の製品やサービスが他社の権利を侵害していると裁判所で判断された場合、企業は非常に厳しい立場に追い込まれます。まず、権利者から製品の製造や販売の差し止めを求められる可能性が高く、これが認められればビジネスは即座にストップしてしまいます。倉庫に積み上がった在庫商品はすべて廃棄処分となり、生産ラインへの投資も無駄になるでしょう。
さらに恐ろしいのは、過去の販売分にまで遡って損害賠償を請求されるケースが少なくないことです。侵害によって得た利益の返還を求められるなど、その賠償額は莫大なものになりかねず、経営基盤そのものを大きく揺るがす事態に発展してしまいます。
金銭的なダメージ以上に企業を苦しめるのが、社会的な信用の失墜です。「他社のアイデアを盗用した企業」「コンプライアンス意識の低い会社」という不名誉なレッテルを一度でも貼られてしまうと、長年かけて築き上げてきたブランドイメージは一瞬で崩壊します。
その結果、既存の取引先から契約解除を突きつけられたり、金融機関からの融資がストップしたりすることも考えられます。また、消費者による不買運動に発展するリスクもあり、一度失った信頼を取り戻すには、損害賠償の支払い以上に長い年月と多大な労力を要することになるのです。
知的財産権の侵害トラブルにおいて特に注意が必要なのは、「その権利が存在することを知らなかった」という言い訳が原則として通用しない点です。たとえ悪意がなかったとしても、事業を行う者には事前に他社の権利を調査する義務があるとみなされます。
つまり、調査不足で他社の特許を踏んでしまった場合、それは過失があったと判断される可能性が高いのです。独自に開発した技術であっても、すでに他社が権利を持っていれば侵害となりますので、「自分たちで考えたから大丈夫」という思い込みは捨て、法的なリスクを直視しなければなりません。
他社の権利を尊重する一方で、自社の守りを固めなければ、強みである技術やブランドが奪われ、市場での優位性を失うリスクがあります。
苦労して開発した自社製品が市場でヒットした際、もし特許権や意匠権などで適切に権利化を行っていなければ、競合他社や海外メーカーによる模倣品の参入を許してしまいます。安価なコピー商品が市場に出回ったとしても、権利がなければ法的に販売を差し止めることは困難です。
その結果、価格競争に巻き込まれ利益率が低下するだけでなく、本来であれば自社が得られるはずだった市場シェアを奪われてしまうでしょう。先行者利益を確保し、適正な利益を回収するためには、模倣品を排除するための法的な防壁を築いておくことが不可欠です。
すべての情報を特許として公開するわけではなく、社内だけの秘密として管理すべき「営業秘密」や「ノウハウ」も存在します。しかし、これらが元従業員によるデータの持ち出しやサイバー攻撃、あるいは取引先経由での漏洩などによって社外に流出するリスクは常に存在します。
独自の製造ノウハウや顧客リストなどが一度でも公になってしまえば、それはもはや秘密ではなくなり、誰でも使える公知の情報となってしまいます。流出した技術を後から特許出願しようとしても、新規性が失われたとして認められないため、ブラックボックス化していた強みを永久に失うことになります。
「製品はまだ開発途中だから完成してから出願しよう」と考え、特許出願を先送りにしている企業は少なくありません。しかし、この判断が命取りになることがあります。知的財産の世界は基本的に、一番早く出願した者に権利を与える「先願主義」が採用されているからです。
タッチの差で競合他社に類似の技術を出願されてしまえば、たとえ先に発明していたのが自社であっても、権利を取得することはできなくなります。最悪の場合、その他社の特許によって自社技術の使用を制限される恐れさえあるため、出願のタイミングを見誤ることは大きな機会損失につながります。
外部企業との連携や社内ルールが曖昧な場合、権利の所在を巡って深刻なトラブルに発展したり、管理ミスによって権利を失ったりすることがあります。
他社との共同開発や、外部の開発会社へシステム開発などを委託する際、契約書において「成果物の知的財産権が誰に帰属するか」を明確にしていないと、後々大きなトラブルになります。発注側としては「開発費を払っているのだから、当然権利は自社のものだ」と考えがちですが、法律や契約の定めがなければ、実際に開発を行った受託側に権利が発生・帰属するケースが多々あります。
いざ成果物を利用しようとした際に、開発会社から追加のライセンス料を請求されたり、ビジネス展開を制限されたりしないよう、契約段階での取り決めが極めて重要です。
特許や商標などの知的財産権は、一度出願すれば終わりではなく、その後の維持管理においても厳格な「期限」が存在します。例えば、審査請求の期限や特許料(年金)の納付期限などです。
もし担当者のうっかりミスや多忙による確認漏れで、これらの期限を1日でも過ぎてしまうと、救済措置が認められるハードルは非常に高く、基本的には権利そのものが消滅してしまいます。たった一つのヒューマンエラーによって、莫大な開発費をかけて取得した重要な権利が水泡に帰すという、非常に恐ろしいリスクが潜んでいることを忘れてはなりません。
中小企業やスタートアップにおいてよく見られるのが、知財管理が特定の担当者に依存してしまう「属人化」のリスクです。「どの技術について出願済みなのか」「次の更新期限はいつか」「契約の内容はどうなっているか」といった重要情報を、特定の社員しか把握していない状態は非常に危険といえます。
もしその担当者が退職や休職をしてしまった場合、社内の誰も状況がわからなくなり、重要な手続きが放置されることになります。経営判断に必要な知財情報がすぐに取り出せない状態は、迅速なビジネス展開を阻害する要因にもなりかねません。
これまで解説してきたリスクを未然に防ぎ、効率的に管理・運用していくために、企業が講じておくべき具体的な予防策について紹介します。
製品が完成してから他社の権利を調査するのでは遅すぎます。知財リスクを回避するための鉄則は、「開発の初期段階」から徹底的なクリアランス調査(侵害予防調査)を行うことです。
開発の構想段階で他社の特許や商標を調査し、問題となりそうな権利を早期に発見できれば、設計を変更して権利侵害を回避したり、事前にライセンス交渉を行ったりといった対策を講じることができます。手戻りのコストを最小限に抑え、安心して製品をリリースするためには、企画段階から知財調査をプロセスに組み込むことが求められます。
共同開発契約や秘密保持契約(NDA)、あるいは業務委託契約を結ぶ際は、必ず知的財産に関する条項を含めて締結するようにしましょう。インターネット上のひな形をそのまま使うのではなく、自社のビジネスモデルや立場に合わせて内容を精査する必要があります。
しかし、法的な専門知識がないまま判断するのは危険ですので、弁理士や弁護士といった専門家によるリーガルチェックを受ける体制を整えておくことが、最大のリスクヘッジとなります。専門家の知見を借りることで、不利な契約を防ぎ、将来の紛争の種を摘み取ることが可能です。
保有する特許や商標の件数が増えたり、検討中の案件が多岐にわたったりしてくると、Excelなどの表計算ソフトを使った手動管理には限界が訪れます。前述したようなヒューマンエラーによる「期限徒過」や、情報の「属人化」を根本から防ぐためには、専用の「知財管理システム」を導入することが非常に有効な手段となります。
システムを活用すれば、期限が迫った案件をアラートで通知してくれるため更新漏れを防げますし、進捗状況や関連資料を一元管理することで、担当者が変わってもスムーズに情報を引き継ぐことができます。管理業務の効率化とリスク低減を同時に実現するツールとして、検討する価値は十分にあるでしょう。
知財リスクは、大きく分けて「他社権利の侵害」「自社権利の流出」、そして「管理体制の不備」という3つの側面から捉える必要があります。ひとたびトラブルが発生してしまえば、対応には多額の費用と時間がかかり、最悪の場合はビジネスそのものが立ち行かなくなる恐れさえあります。
こうした事態を避けるためには、開発段階からの入念な調査や契約の徹底に加え、システムを活用した強固な管理体制を構築することが重要です。「転ばぬ先の杖」として、今一度自社の知財リスクと向き合い、予防策を講じてみてはいかがでしょうか。
適切な知財管理には、自社に合ったシステムの導入が不可欠。
本サイトでは、導入目的別におすすめの知財管理システムをご紹介しています。
ここでは、導入目的別に適した知財管理システム3選を紹介。
それぞれのシステムにマッチした企業と強みについて解説しています。
自社の方針と知財管理の目的に合ったシステム選びの参考にしてください。
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